IoT導入にはどのような課題があるのですか?それはどうすれば乗り越えられますか?

IoTには素晴らしい未来が約束されているように見えますが、導入にあたっての課題も存在します。それがどのようなもので、それをどうやって乗り越えていけばよいかを説明します。

共通する課題

温度管理システム,Iot 温度センサー

農業でも介護でもスマート工場でも、IoT導入の課題は共通していることが分かります。それは、

  1. 初期コストがかかる
  2. 実施者の不足と負担増
  3. 仕様やデータ形式が不統一

ということです。これは実は一つの問題を別々の側面から説明しているに過ぎなくて、その一つの問題とは「不確実性」です。
IoTは全世界的な注目を集めて登場し、多くの人や会社や政府が力を入れて開発しています。IoTが成長し普及すること自体は確実でしょう。そしてそれに果敢に投資し先行者利益を得たところが勝ち残るというのも確実であると思われます。
しかしIoT自体は将来の普及した状態から見ればまだ生まれたばかりの状態であり、手探りでいろいろな可能性を試している段階です。この先どのような姿に落ち着いていくのかは、未来の目で見れば必然と思われる進化をしたのでしょうが、現在の目で見れば五里霧中です。IoTの中でも「なにか」(製品であれ規格であれ企業であれアイデアであれ)が生き残り、普及間違なしと思われた「なにか」がみる影もなくなっている、ということが必ず起こります。1985年頃にMicrosoftが生き残ると思ってた人は少ないでしょうし、コンピュータ同士をつなげるネットワークは構想されていたにせよ、インターネットがこのような使われ方をするとはだれも想像していなかったでしょう。

不確実性ゆえにまだ仕様やデータ形式が統一されていません。HTTPやUSBやXMLのようなデファクト・スタンダードがありません。大量のソースから生み出される大量のデータを長期間保存して分析しなければいけないのにも関わらずです。

それゆえに、それを実際に設計したり構築したり分析したりする実施者が足りません。何を勉強したらいいかわからないからです。例えば今ならばWebデザイナーになりたいという人がいることは不思議ではないし、教育課程も教材もあります。ネットで検索すればたくさんの情報が出てきます。しかし世界中にあるIoTの様々な実践で具体的にどのような機材が使われ、どのようなプラクティスがあり、それを自分の現場にどう活かしうるかとなると全く情報がないに等しいです。仮に一つの現場における実装を極めたとしても次の現場でその知識と経験が活かせるかは未知数です。スマート工場をローンチしたエンジニアやベンダーがスマート農業も同じようにうまく作れるかは分かりません。

したがって初期コストを見積もることが困難です。ホームページを作るといったことならば、何を作るのにどれぐらいの費用がかかるのかとか、作ったものがどれだけの便益をうむのかは概ね推測がつきます。だから予算も出やすい。これらは厳密な損益見積もりができるかという話ではなくて、意思決定者を含む関係者一同がゴールをイメージできるかどうかということかもしれません。「ワールド・ワイド・ウェブで世界に情報発信?うちはそういうの必要ない。電子カタログみたいなもの?会社カタログならこないだ作った。」というのが1995年頃の一般的なホームページの作成現場でした。

課題の解決のために

温度管理システム,Iot 温度センサー

一個人が努力してもどうなるとは思えない構造的といえる課題の大きさの前にため息を付いてしまうというのが、現場の実施者の本音でしょう。しかしIoTが見せる未来の姿そのものは確実なものであり、それをせずに手をこまねいているわけには行きません。
どうすればよいのか。
解決方法も色々分析し箇条書きにすることはできますが、これも本体は一つです。現地現場現物をよく見てゴール設定をしっかりするということです。そこは、IoTといってもスマート◯◯といっても他のシステム開発となんの違いもありません。

具体例をあげてみましょう。
スマート介護において居室管理というのは重要なテーマです。介護現場における夜間の見回り業務は大変な負担であり、それを軽減することができるからです。この居室管理はIoT的には様々な方法が考えられます。基本はセンサーで検知した情報を集中管理することなので、センサーの種類を増やせば取れる情報はいくらでも増えるからです。
例えば温度管理やドアの開閉検知は比較的簡単に実装できます。見守る側にとっても分かりやすいでしょう。夏場に異常に高温になっていれば、ドアが開きっぱなしになっていれば、そこで何か不測の事態が起こっていることは容易に想像がつくからです。そして、さらに欲が出ます。体温や呼吸数や心拍数や血圧などのバイタルチェックもできそうだと。ベッドから離れている離床も分かる。超音波による排泄予測もできたら排泄介護も楽になるに違いない。
しかしそれらを一括で提供するパッケージはない。だから各社の「IoTソリューション」を寄せ集めて、互換性のないデータ形式をむりやりなんとかして一つにまとめる。複雑怪奇になった操作パネルは直感性に欠け、忙しい現場は使わなくなります。集めたデータは複雑な構造になっており再利用が困難です。これはシステム開発現場でも起こっていることと同じことではないでしょうか。
別に、一つ一つの技術やアプリケーションそのものに問題があるわけではないです。バイタルチェックも離床チェックも排泄予測もあれば良いに決まっています。またそれを提供するソフトウェアやハードウェア自体に大きな問題やバグや低品質さがあるわけではないです。
問題があるとすれば、現地現場現物を見るという過程です。
現場は何をしたいのか。そのシステムは何ができるのか。どの部分に困っているのか。そしてその困っているとはどういうことか。力仕事だから身体的にきついので困っているのか、人手不足で困っているのか、ベテランの人手不足で困っているのか、なぜ人手不足で困っているのか、施設利用者とのふれあいが少なくなって作業が事務的になり志があって始めた仕事がルーチン業務になって困っているのか・・・
そういった本当の本音を探り出し、それを解決する必要最小限のシステムを、将来の変更・拡張の余地を残しながら、なるだけ安く短納期で実装し、なるだけ早くフィードバックを得て、なるだけ早く改善する。それをなるだけ何度も繰り返す。これが「たった一つの本体」の正体です。
今ある課題が全て解決されたバラ色の壮麗な未来を見させ、それを実現する巨大な「ソリューション」を提供し、使える予算を最初のその「ソリューション」で使い切り、あとはそのソリューションと現場の乖離が起ころうとも、現場に押し付ける。これがやってはいけないことになります。IoTのソリューションの導入がこのようになっていると言っているわけではないですが、これはシステム開発の歴史で何十年間も幾度となく繰り返されてきた光景です。

未来の変化に対応するために

温度管理システム,Iot 温度センサー

システム開発においては「今あるパッケージに業務を合わせるほうがよいではないか」という意見もあります。業務パッケージというのは各社の様々な現場のプラクティスの積み重ねなのだから、それに自分たちの現場を合わせるべきであって、車輪の再発明はするべきではない。これも正しい意見でしょう。
しかしこれは、業務分野が安定している時の話です。例えば会計業務というのはもう安定していてあまり変化の余地はありません。こういう分野は会計パッケージに業務を合わせるべきでしょうし、自分たちの現場におけるローカルルールは基本的には廃止してしまうべきです。例えば介護でいうのならば、よしんばスマート介護が普及しようとも給与計算や行政への提出書類作成といったものは安定した業務のうちでしょうから、現地現場現物を丹念に見るとか必要最小限のソフトウェアを素早く導入するなどと言ったアプローチは不要です。トップダウンでパッケージを入れて現場がそれに合わせるべきです。
しかし、IoTの活用はまだまだ始まったばかりです。パッケージを入れさえすれば導入事例先と同じだけのことができるというには、まだ若すぎるのです。いずれ何十年か先には・・・もしかすると何年か先に過ぎないかもしれませんが・・・スマート介護やスマート農業やスマート工場は、会計や税務や給与計算と同じような安定した枯れた業務になり、IoTやAIが入ったパッケージを入れればどこでも同じことができる、というようになるのかもしれません。それはたぶんそうなるのでしょう。しかし今はそうではありません。
今は、現場の本当のニーズに合った最小限のものを入れて、技術の変化などの未来の不確実性に合わせて少しずつ機敏に改善していくといったスタイルのほうが良い時代です。